外用療法

外用療法「新しい治療概念 / 乾癬のビタミンD治療について」

ビタミンD3製剤誕生

かなり以前の話ですが、乾癬を患っておられる骨粗ショウ症の患者さんに、治療のためビタミンD3を内服していただいたところ乾癬の皮膚症状が治ってしまったという事例から、乾癬にビタミンD3が有効であるのでは?ということになりました。

一九八六年に大阪大学の森本先生(医学部老人内科)と吉川先生(医学部皮膚科)によってビタミンD3の乾癬に対する効果が報告され、ここからビタミンD3の外用剤が開発されるようになりました。

ビタミンD3自体は一九七〇年代には、発見されていましたが、一九八〇年代に入ってから細胞レベルでの効果が明らかにされてきたのです。

皮膚の構造と働き

皮膚の表面には、表皮がありますが、その表面積は成人で約一、六m2の広がりがあります。またその重さは体重の約十六%をしめています。皮膚は身体の臓器の中でも最大の臓器といわれています。皮膚の表皮では、下層の基底層の細胞が分かれてから有棘層、顆粒層、角層と通常四週間かかって皮膚の表面に押し上げられてくるわけです。このような過程をわれわれは【皮膚の分化】とよんでおります。体の中にある活性型ビタミンD3は細胞質内のビタミンD3の受容体と一緒になり、細胞の中心にある核へ移りDNA(遺伝子)にいろんな命令を下します。この働きが乾癬の病気の原因である皮膚の細胞(表皮ケラチノサイト)の増殖亢進、分化障害という現象を正常化すると考えられています。また皮膚は、身体を外部の刺激から保護することに加えてビタミンD3を合成する場でもあります。

乾癬の原因と治療

乾癬になりますと、基底層からの下から上への分化が、四~五日でおこり、同時に炎症がおこっているという状態になります。原因としていろいろ言われていますが、未だにはっきりとしたことは分っていません。

従来からの乾癬に対する治療というものは、軽症から重症まで、外用剤はステロイド中心に処方され、並行して紫外線治療やビタミンA(商品名チガソン)の飲み薬とか免疫抑制剤が使われてきました。いずれの治療法にしても決定的なものでなく、乾癬治療の経過の長さからステロイド剤の副作用や、紫外線治療にしても短期的には大丈夫なのですが、ある一定量の照射を超えると発ガン性の問題が起こってきます。ビタミンAについても免疫抑制剤についても副作用があります。

欧米での乾癬治療

ヨーロッパの例からいいますと一番処方箋の量が多いのがビタミンD3軟膏のドボネックス、二番目にステロイド剤、三番目にサルチル酸、四番目に日本で使われなくなりましたがタール剤・・・というような使われ方がされております。ヨーロッパやアメリカではやはりビタミンD3がファーストチョイスとして使われているようです。

ビタミンD3製剤とは

もともとビタミンD3というのは身体の皮膚での紫外線の働きにより造成され、肝臓、腎臓などで手を加えられて活性型ビタミンD3となり、骨を丈夫にするカルシウムを強化する働きをするのですが、細胞では受容体というものにくっついて異常な皮膚のタンパク質を正常化させる働きを行います。ビタミンD3を投与することにより、皮膚の増殖が抑えられるわけです。

各種ビタミンD3軟膏

【ボンアルファ軟膏】 帝人 一九九三年十二月発売
ボンアルファはタカルシトールが主成分で(2μg:0.0002%)含有します。ボンアルファ軟膏は濃度が薄く、副作用が少ないことが特徴です。ボンアルファには「ボンアルファ軟膏2μg」「ボンアルファクリーム2μg」「ボンアルファローション2μg」など軟膏、クリーム、ローションと部位による使い分けが可能な剤型が揃っています。

【ドボネックス軟膏】 帝国・フジサワ 二〇〇〇年六月発売
ドボネックス軟膏はカルシポトリオールが主成分で 1グラム中カルシポトリオール(50μg:0.005%)含有します。一本10グラムとして本数にして9本くらい、1週間に90グラム以内の使用が可能です。

【オキサロール軟膏】中外・マルホ 二〇〇〇年九月発売
オキサロール軟膏はマキサカルシトールを、1グラム中に25μg含む外用剤です。1週間に70グラム以内の使用が可能です。1日2回の外用で、1日の使用量が10グラム(チューブ1本)を超えないこと。

◆オキサロールローションが二〇〇七年六月発売に発売されました。

【ボンアルファハイ軟膏】 帝人 二〇〇二年十月発売
従来から「ボンアルファ軟膏2μg」「ボンアルファクリーム2μg」「ボンアルファローション2μg」を販売されてきましたが、【ボンアルファハイ軟膏】はこれらの2μg製剤に比べて主薬含有量を10倍とした高濃度製剤であり、より強い薬理作用による高い効果が期待されています。作用強度については1日1回の使用で2回に見合う効果があります。ボンアルファハイ軟膏についても1日(チューブ1本)の使用を超えないようにすることが大切です。

◆ボンアルファハイローションが二〇〇六年六月発売に発売されました。

それぞれの薬には特徴があり、私も患者さんから「先生、どれを使ったら一番良く効くのですか?」などと尋ねられますが、各々構造、組成も違い患者さんの個人差というものもあります。治験や研究室レベルでのステロイド剤リンデロンなどとの比較研究などあることはあるのですが、一概に「効果がある順番はこれです!」というようなことは今のところなかなか申しあげられません。実際には患者さんそれぞれに使っていただいてその効果を確かめるというようなことになります。

ビタミンD3外用剤の使用上の注意

ビタミンD3製剤も薬である限り副作用というものがあり、特に体内のカルシウム値に影響を及ぼすことがあります。そこで、ある程度の量を使う患者さんには、一ヵ月後、二ヶ月後に尿中、または血中のカルシウム値の検査を行い、血中のカルシウム値の上昇がないかチェックすることになります。カルシウム値の上昇は具体的にはどういう症状にあらわれるかといいますと、高カルシウム血症の主な症状は倦怠感、脱力感、食欲不振、腹部膨満感、頭痛、めまいなどいろいろな副作用があらわれます。すべての患者さんに現れるわけではありませんが、人とは違う過敏症の患者さんもおられるわけですから、そのような副作用の症状に充分注意しながら使って行くことが大切です。

先ほども触れましたが、ビタミンD3というのは、体内でカルシウム濃度をさわる働きをするものですから、腎臓などが弱っておられる患者さんには注意が必要です。また妊婦さんや子供に対する投与は安全性が確立していません。

ビタミンD3軟膏は角化症治療剤ということで、乾癬のみならず、魚鱗癬(ギョリンセン)、掌蹠膿疱症(ショウセキノウホウショウ)など、似たような他の皮膚病にも使われております。

また薬代の経済的負担という問題もあります。薬価基準によりますとボンアルファ軟膏は1グラム99.5円、ドボネックス軟膏は、1グラム111.1円、オキサロール軟膏が1グラム115.5円、チューブ1本が10グラム入りですから1本の値段はその10倍ということになります。最新に発売されたボンアルファハイ軟膏は1グラム280.1円と倍の薬価になっています。この点で私たちも外来で患者さんから「ボンアルファハイ軟膏は何でこんな高いの?」と疑問を呈されることもあるわけですが、ボンアルファハイ軟膏は一日一回の外用で他の軟膏の二回の外用に匹敵する薬理効果があり、従来の半分の使用量で同等の効果が得られると評価しています。効果に見合った値段である、厚生労働省の薬価基準の設定もこんなところにあるのだろうと思っていますので、そういう説明をすると患者さんにもやっと納得していただけるようですが、昨今の経済環境の中でなかなか大変だと思います。

ビタミンD3軟膏の使い方について、ステロイドをお使いの患者さんについては、一時にステロイド剤を止めるというのは危険が伴いますので、徐々にステロイドから離脱することが必要です。ステロイド以外の薬からの変更についてはそんなに問題になることはありません。

ビタミンD3軟膏は他の治療と併用すると効果が上がるというデータもあがっています。ステロイドからの離脱という説明をしましたが、ステロイド剤と交互に使うやり方もあります。またビタミンD3軟膏とステロイド軟膏を混ぜて使う方法などもありますが、やはり乾癬治療に慣れた医師でないと適切な外用指導が出来ず、かえって悪くなることもありますので、熟練した医師の指示に従って行うことが必要だと思います。

実際の使用方法

ビタミンD3軟膏は海外での使用経験がかなり蓄積されていまして、その使用方法にコンビネーション(Combination:「組み合わせ」という意」)治療とシークエンシャル(Sequential:「連続的な」という意」)治療という方法があります。ビタミンD3軟膏単独使用によっても症状の改善が十分でない患者さんが数多くおられるという事実をふまえて、より有効に効率よくそれぞれの治療の長所を引き出そうという方法です。

コンビネーション治療とは、複数の薬剤を同時に使用して、それらの効果を高める一方、個々の薬剤の使用量を抑えることで、副作用の発現を防ぐことを目的とするものです。ビタミンD3軟膏の場合、外用剤との併用としてステロイド外用剤との混合使用が考えられます。治療効果を上げると同時に高濃度のビタミンD3軟膏の刺激性を軽減する効果も期待しての使用法でもあります。混合相手となる薬剤の種類によってはビタミンD活性の低下を来すものもあり、安易な混合は避けるべきですが、比較的安定というデータがあります。

さらには内服剤との併用もあります。免疫抑制剤やビタミンA誘導体との併用で良好な効果が得られると同時に投与量を抑制することも可能となり、有用と思われます。

内服以外でも中波長紫外線(UVB)療法、ソラレン長波長紫外線(PUVA)療法との併用で明らかな改善が見られます。また近年では特殊な波長のナロー・バンド(narrow-band) UVBとの併用も行われています。

シークエンシャル治療は長期連用には適さないが短期使用により著しい効果が期待できる薬剤を先ず使用し、次に短期使用ではあまり効果が期待できないが、長期使用でも副作用等の恐れのないものを組み合わせて使用することにより、各薬剤の持つ治療効果を最大限に生かすとともに、副作用を回避し長期にわたる乾癬の症状のコントロールを目指す治療方法です。外用剤に限定して考えると、ビタミンD3軟膏でも濃度の異なるものを組み合わせて使うことやステロイド外用剤と組み合わせての使用が考えられます。

例えば、一日のうちでもステロイド外用剤、ビタミンD3軟膏を各一回ずつ外用したり、ビタミンD3軟膏を平日に使用し、週末の土、日曜には強いめのステロイド外用剤を使用する。という方法で、徐々にステロイド外用剤の使用頻度を下げ、ビタミンD3軟膏を増やし、そのビタミンD3軟膏のみに時期を見て変えていくことにより長期にわたるコントロールが可能な状態に変えていきます。ただステロイド外用剤により治療を始めた場合にはビタミンD外用剤への性急な切り替えはリバウンドによる症状増悪の可能性もあり慎重を要します。もちろん症状が重い場合には前述したコンビネーション治療で内服剤や紫外線治療も併せて行うことが必要になります。

今後も乾癬治療にはステロイド外用剤が使用されることは間違いないのですが、欧米の例からもわかるようにビタミンD外用剤が乾癬治療のファーストチョイスになっていく傾向もはっきりとしています。問題はこれらの外用剤をどのように使い分けるか、それによりどのように患者さんのQOLを高めるかだと思います。

小林皮フ科クリニックの外用療法の進め方

乾癬の外用治療の中心になるのは、ビタミンD3外用剤とステロイド外用剤の2種類です。ステロイド外用剤は乾癬以外の皮膚疾患についても幅広く用いられていますが、ビタミンD3外用剤は乾癬に特徴的に使用される外用剤と言えます。

現在日本においてビタミンD3外用剤は3種類用いられており、乾癬患者さんに対しての選択方法はいろいろと論議されていますが、結局は患者さんの希望や相性を基に医師の判断により決めることが多いです。私の大まかな判断基準を述べますと、1)皮疹面積がそんなに広くなく、ビタミンD3外用剤のみでもコントロールできる可能性があり、患者さんが多忙で一日一回の外用が精いっぱいの場合はボンアルファハイ軟膏・ローション。2)一日二回外用が可能でステロイド外用剤との併用の必要があるほど皮疹面積が広範囲であり、顔面頭部にも乾癬皮疹が分布している場合はオキサロール軟膏・ローション。3)顔面頭部には皮疹はあまり見られないが、体幹部、四肢を中心にして、かなり厚い鱗屑を伴った乾癬皮疹が見られる場合はドボネックス軟膏、というように考えています。もちろん実際に使ってみて思ったような効果が出なければ外用剤を変えてみることも大切です。

ビタミンD3外用剤のみでのコントロールが可能な乾癬患者さんは限られていると思いますが、中にはあくまでステロイド外用剤は拒絶されて我慢強くビタミンD3外用剤のみを使用して皮疹の消褪を見た患者さんの場合、皮疹再発までの緩解期間はステロイド外用剤を併用された患者さんに比べて長いという印象があります。ですから長期的な治療方針に納得されるならばビタミンD3外用剤のみというのも選択肢の一つかもしれません。

しかし皮疹面積がかなり広範囲な場合はもちろんステロイド外用剤との併用が必要です。

これらの併用方法についてはかなり奥深いものがあり、いくら述べてもキリがないくらいです。大まかには A)混合して使用する、 B)重ね塗りをする、 C)それぞれ単独で用い使用回数で調節する、といった方法があります。私の意見として、ビタミンD3外用剤は濃度の低下が乾癬に対する効果に致命的な影響をもたらすと考えている為、A)やB)のような塗り方はなるべく避けており、C)の時間をずらして単独使用でコントロールしています。つまりビタミンD3外用剤とステロイド外用剤をそれぞれ1日1回朝夕に単独で外用して頂くわけです。私のクリニックでは、ビタミンD3は自然の紫外線で合成される一方、分解もされ易いので夜に外用して頂くようにしています。その結果ステロイド外用剤は朝ということになります。毎日朝夕外用して頂いて、ある程度軽快してくれば、平日はビタミンD3外用剤のみで様子を見て、週末土曜日曜のみステロイド外用剤を使用して頂きます。さらに軽快すればステロイド外用剤を中止し、ビタミンD3外用剤単独使用に移行していきます。

また最初の段階で、皮疹面積がかなり広範囲で重症の場合は、ステロイド外用剤を単独で使用開始する場合もあります。ステロイド外用剤の場合はビタミンD3外用剤とは異なりワセリンやアズノール軟膏(私の好みですが)と混合して用いても薬効はある程度維持されるので、外用面積に合わせて多量に処方することも可能になってきます。そして皮疹面積をある程度縮小させた後にビタミンD3外用剤の使用を開始するのです。その理由の一つには、ビタミンD3外用剤については、およそ1日1本以内という使用限度が決められているので、広範囲の皮疹面積には対応出来ないことがあります。

各配合外用剤の使い方

ビタミンD3外用剤とステロイド外用剤が既に混合された状態で製剤化されたものがようやく日本でも使用可能になりました。

今回の配合外用剤は、既に私たちが用いているビタミンD3外用剤と同程度の濃度を有しており、それにvery strongクラスのステロイドを含んでいます。なので、これまでのように混合することによる濃度低下の心配はありません。しかも1日1回の使用なので、ビタミンD3外用剤とステロイド外用剤をそれぞれ1日1回朝夕に単独で外用することと比べ、かなり手間が省けて患者さんの負担も減ります。

この配合製剤は2種類あります。「ドボベット軟膏」が、2014年9月より「マーデュオックス軟膏」が、2016年6月より処方可能となっています。私のクリニックにおいてもこれまでのビタミンD3外用剤とステロイド外用剤との併用療法でなかなか効果の得られなかった患者さんに使用を開始していますが、良い効果を得られています。

どのような患者さんに使用を始めているかと言いますと、それぞれ1週間に90g及び70gという使用制限がある為、まずは皮疹面積が広すぎない方です。

更には、経済的な問題があります。

ドボベット軟膏の薬価は1g当たり263.5円、つまり1本15gで3952.5円です。保険3割負担の方でも約1186円になります。マーデュオックス軟膏の薬価は、1g当たり231円、つまり1本10gで2310円です。保険3割負担の方でも約693円になります。これまでのビタミンD3外用剤の約2倍の金額です。

負担を少なくするために、私のクリニックでは、皮疹面積が10%以下の患者さんや、皮疹面積が広くても光線療法などで軽い皮疹はコントロール可能で難治性の皮疹が肘、膝、お尻に限局しているような患者さんに対して2週間分を目安に2-3本処方しています。

患者さんによってはステロイドを拒絶されている方もいるので、そのような方にはステロイド成分が含まれていることを納得して頂く必要があります。

単独治療で効果があるのはもちろんのこと、今まで既存の外用剤を使用したり、紫外線療法を併用しても治療効果の得にくかった患者さんでも有効な症例が多く、また病歴の長い人や下肢などの難治部位にも効果が見られ、一部の人には、爪甲病変に改善効果が見られました。

この様な配合外用剤の使用でもさらに難治な場合は、光線療法・内服療法・生物学的製剤の使用など、他の療法との併用がもちろん必要です。